【なかむら 三種混合麹 25度 720ml】
以下、杜氏である中村慎弥氏による熱い文章をご紹介させていただきます。
●なかむら 三種混合麺の経緯と考察
”風景が浮かぶ酒”として、やはりまず頭に浮かぶのはワインの“テロワール”という概念かと思います。工業的な大量生産方式ではなく、なるべく機械や人工物に頼らない家庭的で自然回帰的な製法です。それらを紐解くと「原料」「水」「環境(菌)」「人」(場合によっては「規模」)という所に帰結致します。当蔵として最終的にはこれらすべてを具現化していく事が目標ですが、私が最初に取り組んだのは「環境(菌)」の部分でした。それは私が歳を継ぐキッカケになった話にも繋がりますし、中村酒造場という古く小さな蔵の風景を残したい、が私の最初の想いだったからだと思います。
それらを踏まえ、まず取り組んだのは後述する“酵母無添加製法”でしたが、その後に「やはり、ウチの強みは麹造り」だと再認識し、ではその最初の種である「種麹」は結局専門の麹屋さんから買っているではないか、最も重要とっている割には0→1の部分は専門業者に任せてしまっている、と考えたのがキッカケでした(2015年頃)。
「種麹から自社のものを使う」
というのは私が知る限りでは誰も行っておりませんでしたし、そもそもで蔵の中に蔵付き(もしくは麹室付きの)種麴が存在するのかさえ分からないまま、使命感に突き動かされトライ&エラーを5年ほど繰り返した結果、古くから残る当厳の麹室の中から「白麴・黒麹・黄麹」の種がそれぞれ同時に出現したのです(個人的には白・黒・
黄は人間の肌の色と一緒!と感動しておりました)不可能と思われていたこれらの菌の共存がまず私にとっての驚きと歓びであり、更にこの黄麹に関しては100年以上の歴史ある蔵だからこその出現(蔵の中の空気中、そして室の木の中に生息している)だと国税局館定官にご教授頂き、「時を超えた菌」として私の中で重要な意味を持つ発見だった事は言うまでもありません(ちなみに、ここ50年ほどの歴史を見ても当蔵には黄麹を使った銘柄はございません)
そして、ここからは造り手としての純粋な好奇心でしたが、その出現した種麹(白+黒+黄)を1:1:1の割合で蒸した米に摺り付けた所(種付け作業)、一般的に最も野性的と評されていた黒麹を抑え、まさかの「貴麹」と成ったのであります。これだけでも私としては大興奮するポイントだったのですが、更に驚くべきはこの黄麹が、白麹と黒麴にしかないクエン酸生成を行う黄麹となった事でした。つまり、成分分析するとこの表向き黄麹に見える麹菌は、その成分の中に白麹と黒麹の遺伝子も携えた「ハイブリッドな麹菌(白✕黒x黄)」である事が分かった訳です。
話しを戻しますが、【風景が浮かぶ酒】を造るためには【その土地に根差したもの】を使う必要がある。それは、原料はもちろん長年蔵に棲み付く『菌』も同様だと私は考えております。そういった理念の基に生まれた”三種混合麹”は、1年間の中で3週間ほどの期間(その年の気候状況にもよりますが8月下旬~9月中旬)でしか三種のバランスが上手く揃わないので、大量生産は当然出来ないものの、毎年少量でもチャレンジしていくべき重要な取り組みである事を、これらの説明でご理解頂けますと幸いです。
(有)中村酒造場 杜氏 中村慎弥
【テイスティングコメント】
軽やかな白麴、力強い黒物、甘く深い黄のバランスが酒質に反映され独特なニュアンスをもたらしています。ややビターな芋の甘味に深いコクが相まってストレートではワイルドな印象ですが、水やお湯を加えると途端に柔和な印象に変わります。
たにもと屋としても、彼が長年取り組んできたことが形となってお客様の手元に届くことを大変嬉しく思います。中村酒造場でしか造れない焼酎の価値、本気で取り組む姿勢、蔵の伝統の中から生み出される懐かしくも新しい味わい。中村酒造場が魅せる価値ある焼酎を是非、ご堪能ください。